Toward An Electronic Patient Record98報告
大阪大学医学部附属病院医療情報部
武田 裕
米国の医療はマネージドケア機関の台頭、患者ケアのより一層の効率化など厳しい状況にあるが、電子カルテはその対応に不可欠なものと認識されており、全般的にこの分野は医療情報学研究者、産業関係者は元気である。このような状況下で5月12日から16日までテキサス州サンアント
ニオ市コンベンションセンターで開催されたTEPR98は、プレ、ポストカンファランスを含め409演題、3000人の参加者、160社の展示が行われ、この分野では全米のトップ3に入る大会である。抄録の締め切り時点では大会開催中であるが、現地で収集したトピックスを報告する。
1. チュートリアルのタイトルから
この大会は、チュートリアルが充実し、電子カルテの開発、啓蒙に寄与している。主なタイトルは以下の通りである(プログラム順); Where are we on the road toward EPR systems?
Overview of standards developments.
Simulating clinical work flow.
Selecting a system for a doctor's office.
Health care technologies for dummies.
Implementing information security.
The new approach to health networks.
Internet opportunities for health care.
How to avoid pitfalls in planning and implementing EPR systems.
Data repositories.
Adopting and implementing the KONA interchange spec between internet and legacy systems.
Introduction to Clinical computing.
How to avoid pitfalls in physician networking.
How to apply HL7 standards.
Legal issues and telemedicines.
Interface engines; picking one, using it and keeping it going.
SNOMED; a controlled terminology for the EPR.
Object technology.
Clinical information systems.
Developing a security solution that meets HIPAA.
Developing an effective EPR system for an integrated delivery system.
New developments in medical concept representation.
The future role of patient cards.
Using healthcare software components to build a clinical workstation.
Security and confidentiality; setting standards for the healthcare industry.
Let the patient input his/her information into the computer.
以上のチュートリアルで米国の電子カルテをめぐる現状がある程度類推される。上記のタイトルに関連して2、3新しい話題を補足する(独断と偏見?)。
2. Healthcare Transaction Server機能
Sequoia Software社は、Interchange98の開発を行い市販を開始した。その特徴は、展示文書によるとHL7/KONA interchange standard, XML-based Master Patient Index, SQL and SGML/XML content queries, In-line content translation via XSL, Multiple native viewers (DICOM etc), Browser-based ASP thin client, Crash-proof stand-by clusters, Self-tuning and production work flow, Native 'Document-centric" DBMS, Multi-threaded DCOM,URL and APIs, Fully 32Bit Windows NT Services等である。情報化時代におけるインターネット医療に待望されていたサーバ機能の誕生と思われる。
特筆すべきは、Sequoia Software社が国レベルのMPI(Master Patient Index)をXML(eXtensive Mark-up Language)を利用して開発する契約を1997年に米国商務省のNIST(National Institutes of Standards and Technology)と締結していることである。他の標準化技術も網羅しており、この機能をOEMで組み込んだ電子カルテ開発が加速するであろう。我が国の電子カルテ開発にも大きな影響を及ぼすものと予想される。
2. HIPAA
HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1966) 、別名Kennedy-Kassebaum法は1996年連邦議会を通過したもので、健康保険関連のデータ交換の際、標準規格を設けて電子的交換を行い管理コストの削減を行うとともに、患者データの機密保護を求めるものである。これを受けて米国厚生省は、保険加入と適確性、保険請求、登録番号(個人、雇用者、保険プラン、医療供給者のID)、医療データ・コード体系、医療情報保護規格の5分野で作業グループを設けて実現を目指している。今後、98年夏までに草案を公開し意見聴取を行い、その後修正を加えて法令として施行される。この連邦法は、原則的に関連するいずれの州法に優先すること、医療機関は2年以内(小規模医療機関は3年)に規格に準拠すること、怠った場合は罰則が科されることもあり、施行時期は来年と予想されるが、米国での険関連情報(直接的に電子カルテを意味するものではない)の電子交換技術、プライバシー保護の標準化の動きが一気に加速するものと思われる。
報告の骨子は以上であるが、当日はdigital cameraでの映像を含め会議、展示の状況を紹介する。
なお、米国での電子カルテ開発の最新情報の取得とわが国の電子カルテ開発の現状を海外に発信するためにこのTEPRをToward Electronic Patient Record Asia 99 (TEPRA99)として、1999年2月11日から13日の期間、関西国際空港の対岸にあるリンクウ国際会議場を中心に開催することなった(国内事務局;大阪大学病院医療情報部内、連絡先;secretary@hp-info.med.osaka-u.ac.jp)。この機会にわが国での電子カルテ開発と一般への浸透を促進すべく企画を行う予定である。関係各位の積極
的な提案、参加勧誘を望みます。
(なお、本稿の作成にあたりNEC尾崎氏、羽澄氏、日本IBM松崎氏から貴重な情報提供を現地で頂いた。感謝の意を表します。)以上です。