大石勝昭
金沢医科大学 医学情報センター
1. はじめに
金沢医科大学病院で1997年11月から稼働している電子カルテシステムとは、その基盤となるフルオーダリングシステムを包含したものを言う。
その電子カルテシステムを中核とし、医事会計システム、経営情報システム、研究用医療情報データベース等を統合する新医療情報システムは、1992年に構想され、以下のように、開発プロジェクトチームに引き継がれ、現在も継続している。
ユーザーインタフェース等に関する概要は、別に用意するパンフレット(医療情報関連図数枚、電子カルテ画面例13枚等を含む)を参照していただくこととして、ここでは、電子カルテシステムの開発経緯から見たユーザーインタフェース設計の問題を、システム全体の角度から述べてみることにする。
2.電子カルテシステムの開発目的(-1995)
金沢医科大学病院では、近年の医療機器および各種検査法の進歩に伴い、医療情報の種類と量が急速に増加してきた。しかし、従来の整理と保存の方法だけでは医療情報の増加に対応しきれず、それがカルテの肥厚化やフィルム保管スペースの拡大にも繋がって、病院はそれらの作業に伴う膨大な人数と時間、諸費用の増加を余儀なくされてきた。
また、地域関連病院との医療情報の交換方法も限られており、患者が複数の医療機関で治療を受けるときにも役立つ方法を検討する必要もあった。
金沢医科大学は、これらの課題を解決するために、カルテの電子化が必要であると考えた。すなわち、現在のコンピュータ技術を活用すれば、カルテ等診療記録の整理保管とカルテ搬送に関する問題を解決して、各外来診察室、各病棟、集中治療室などの診療場所でペーパーレスやフィルムレスを実現し、それらの電子化された診療情報を病院全部門スタッフが共有することによって、高質かつ高能率の診療に寄与できると考えたのである。また、地域関連施設との診療連携にも役立つことも、視野に入れていた。
ここで、電子カルテシステムとは、本来カルテに記載されるべき情報と全オーダ情報との連携処理を中核とするオンラインリアルタイムシステムのことである。それは、診療行為の指示者と実施者がその発生場所で端末入力したデータを、目的別にコンピュータ処理・蓄積する機能から構成される。
これにより、従来から[伝票起票→複写→転送→点検→追記→実施→集計→報告→保存]の手順で処理されていた事務的な手作業が、すべてコンピュータ処理に置き換わり、それまで発生しがちだった記載漏れ、転記ミス、期限切れ、集計ミスなどの未然防止が可能となり、さらに患者サービスも向上することが期待された。
3. 電子カルテシステムの実施目標(1995-)
前述の開発目的を含み、母体の新医療情報システムの方針は次の実施目標に分解された。
1)病院のスタッフがオンライン端末から目的の情報を即座に検索・確認・集計できるデータベースを確立し、診療・研究に役立てる。
2)カルテの診療記録と連動する病歴情報や診療情報等のデータベースを蓄積する。
3)外来および入院の診療行為オーダは、原則として、医師が病棟または外来診察室の端末機で入力するものとし、注射・処置・検査等の実施入力は看護婦や技師等の実施者が行うものとする。
4)病歴管理上行き詰まってきた診療記録の整理保管、搬送に関する諸問題に抜本的な解決策を与えるとともに、将来の電子カルテ法制化に備える。
5)診療予約制の導入により、外来部門、中央診療部門(検査、放射線、薬剤等)および医事部門(受付・会計)での患者待時間を短縮し、かつ、各部門業務の効率化を図る。
6)手書き伝票をなくして、診療情報の転記漏れ、重複記載の解消をはかり、医事業務の効率化と保険請求精度の向上に役立てる。また、利用頻度の少ない帳票類は極力廃して、端末画面参照機能で代用するほか、保存が必要な管理帳票類も極力簡素化する。
7)地域医療機関との紹介・逆紹介等に関する情報、在宅医療情報等をデータベース化して、地域医療連携の体制を確立する。
8)各データベースを利用して、病院経営に役立つデータの収集・分析・対策等に必要な情報が得られるようにする。
4. 電子カルテシステムの開発プロジェクト(1996-97)
金沢医科大学は、上記のような電子カルテシステムを開発するため、1996年1月に開発プロジェクトチームを発足した。そして、これまで病院の各部門(診療科、中央診療部門、看護部門、事務部門等)で個々に管理されてきた各種の診断情報、病歴情報、治療情報、検査情報、看護情報、保険情報、会計情報、研究情報、…等を電子化し、統合管理を実現した上で、そこから得られる正確・高質な診療情報と管理情報を、利用者に迅速に提供できることを意図した。
プロジェクトチームは、病院側は専任スタッフ(医学情報センター)5名、本業兼任スタッフ(各部門代表者)数10名で、各部門調整して新運用の詳細仕様固め(2年間で通算600回調整会議)を行った。また、メーカ側には専任スタッフ10〜30名ほどで、システム全体のソフトウェア機能設計とプログラム開発を頼み、必要に応じてプロジェクト調整会議にも参加してもらった。
5. ユーザーインタフェース画面設計作業(1996-97)
電子カルテシステムの端末画面設計作業では、約1年間で、全オーダ画面(2700枚/8+3人)と電子カルテ画面(200枚/2+3人)を作成した(括弧内の数字8とは病院側専任数、各+3はメーカ側専任数)。短期間少人数でこれだけの画面を作成できた直接の理由は、オーダリング系と電子カルテ系の「画面作成ツール」がメーカから提供されたことによる。また間接の理由は、個々のシステム仕様と新運用ルールを固めてから、関連画面の設計作業を行ったことによる。もちろん画面設計作業と並行して、システムの根幹をなす詳細機能の検討作業は継続され、メーカ側のプログラム開発作業も順調に進められた。
6. ユーザーインタフェース画面の改善(1998-99)
電子カルテシステムが計画通りに稼働して半年後(1998夏)、実際に電子カルテを利用している医師が中心なって、現行システムの改善を、インターフェース画面改造の角度から推進しようとするプロジェクトが新たに発足した。それにメーカSEも加わって1年を経過した現在、改善機能部分のメーカ側のソフトウェア開発と当方医師側のテストを終えて、現在の電子カルテシステムを今年中に一挙更新する目処が立っている。
7. ユーザーインタフェース設計の留意点(問題提起)
以上の電子カルテシステムの開発経緯から知り得た経験的な問題を、ユーザーインタフェース(端末画面機能)開発の角度から幾つか提起してみる。ただし、金沢医科大学の開発スタッフも、個々の問題に答えを用意しているわけでなく、またどの病院にも当てはまる答えなどあり得ないと承知しているが、これから電子カルテシステムの開発を検討(または躊躇)されている方々は、事前に検討された方がよいと思われる。というのは、それぞれの問題が形を変えて、電子カルテシステムの進展を阻むような疑問に置き換わることが多い場合は、どの利用者(医師ら)にも一貫した説明がされることで、無用の誤解が生ずる恐れを回避できるからである。逆に言えば、電子カルテシステム開発スタッフの説明次第で、ユーザーインターフェイスの問題は簡単に解決する可能性もあるのである。
(留意点:問題例)
【参考文献】