昨今の医療費抑制圧力は,国立大学附属病院をも聖域とは見なさず,独立行政法人化問題に代表されるように,厳しい経営環境にさらされている.現在宮崎医大では,収入の約4%を医療情報システムレンタル料に充てている.しかし,それに見合う収入増を果たしているかは疑問である.新システム(PHOENIX2000)では,経営改善に資するシステム作りが重要な課題となっている.
医療情報システムによる経営改善として,以下の3つが挙げられる.
経営分析システムの構築
経営的観点から見たクリティカルパスの導入
情報中核病院化と地域病院との連携
経営分析システムの構築
宮崎医大では,1998年より経営改善のための経営分析システムの開発を行っている.
1. 特徴
経営分析システムの特徴として,次のものが挙げられる.
(ア) 収入,支出の両者を網羅し,収支(利益)を計算できる.
(イ)収入,支出とも,日毎,患者ごとの粒度で情報を抽出する.細かな粒度で情報を保持しているため,多様な集計に対応できる.
(ウ)全ての情報は,共通フォーマットに変換されているため,施設間の違いを比較するのに適す.
(エ)共通フォーマット(P-FAIR,H-FAIR)に変換されているため,今後共通フォーマットに対応した分析システムを開発することが容易であり,また,開発したものを他施設へ流用可能である.
2. P-FAIR (Patient Financial Analysis InfoRmation)
患者単位の日次の収入,支出データを共通化するフォーマットである.収入データは10分類,約50分類,さらに細かな分類(オプション)と3段階の粒度を選択できる.経費は,主として次のH-FAIRのデータより按分により算定する.以下のセクションよりなる.
患者識別情報
住所,郵便番号
健康保険情報
診断履歴情報
患者経営分析情報
診療報酬請求額
日次,患者ごと
診療行為区分別
手術,検査,レントゲン,諸収,基本料は明細
患者支出情報
日次,患者ごと
(H-FAIRの情報を元に算定)
3. H-FAIR (Hospital Financial Analysis InfoRmation)
主として経費算定に必要な病院(部署,職員)単位の情報を共通化するフォーマットである.支出(材料,共通管理経費,人件費)を按分により,日次,患者ごとに集計する.以下のセクションよりなる.
面積病床数情報
共通病床情報
人事情報
職員給与 情報
職員勤務時間
教育,研究,診療別
費用情報
経費算定情報 (按分ルール)
患者数統計
収入情報統計
支出情報統計
4. 本システムでできること
全ては運用次第であるが,以下の経営分析手法を想定している.
収支分析,患者数統計
地域別 年齢別
診療科別分析
疾患別 (DRG,ケースミックススタディ)
クリティカルパス
入院時系列分析(在院日数の損益分岐点)
部門経費
教育,研究に費やす人件費
経営的観点から見たクリティカルパスの導入
経営分析結果を経営改善につなげるために,クリティカルパスを導入する.以下,ステップを追って説明する.
1. 経営分析システムから疾患ごとの入院経過(パス)を抽出
P-FAIRのフォーマットは,日毎患者ごとの診療内容と,収支情報が抽出できるため,実際の入院経過が収支の情報も含めて分かる.疾患ごとの解析のためには,病名を,正確にコード化しておくことが必要であり,宮崎医大ではICD10(標準病名マスタ)を採用する.
2. 在院日数から見た損益分岐点を元に,経営上好ましいパスを作成
P-FAIRの収支情報を元に,疾患ごとに損益分岐在院日数を調査し,経営上好ましいパスを作成する.
3. 上記パスをオーダリングのセットオーダーとして登録
診療科医師に具体的な診療計画を与える.これにより,明確に経営的観点からの指針を示すことができる.
情報中核病院化とと地域病院との連携
広域ネットワーク(WAN)上に電子カルテの連携用データベースを設置,運営し,宮崎医大を含めた複数の医療機関で診療情報交換を行う.データフォーマットはMMLを用いる.
宮崎医大を軸に診療情報交換を行い,宮崎県の情報中核病院を目指す.電子カルテの普及を促進することが重要である.
情報中核病院化のメリット
1. 当院への紹介患者数の増加(地域病院の囲い込み)
日頃から地域病院の医師の相談に乗り,診療アドバイスを行う.必要に応じて,積極的に患者を引き取る.
2. 在院日数短縮のための地域病院への転院の促進
カルテ情報のシームレスな運用(一患者一カルテ)をなるべく実現し,病院を移っても診療内容に切れ目が生じないようにする.
3. 中核病院としての存在感のアピール
大学病院の生き残りを掛けて,地域での存在意義をアピールする.