MedXMLSIG報告(鍼灸情報)

 

森 勇樹1,梅田雅宏2,青木伊知男3
明治鍼灸大学脳神経外科1,医療情報学2,
Laboratory of Functional and Molecular Imaging NINDSNIH
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1.はじめに

 鍼灸医学は「伝統医学」と呼ばれるように、経験則や実践的な治療を通じて成立してきています。したがって、現代医学と異なった特有の用語や概念が存在するため、それらに対応した「鍼灸用電子カルテ」の検討が必要であると考えます。

 一方、鍼灸医学の有用性に関して、科学的な裏付けのある臨床研究や疫学調査も期待されています。また、鍼灸にとって「鍼灸院と鍼灸院」の情報交換はもちろん、できれば「鍼灸院と病院」との情報交換ができると、患者をはじめ医療関係者共にメリットが有ると思われます。このような理由から私たちは鍼灸臨床に、標準的な交換規約に準拠した電子カルテを使用することで、鍼灸が利用される疫学的な調査や有用性の検討などが可能となると考えました。同時に医療情報の交換や共有化が促進された結果、患者に対する医療の質的向上がもたらされると考え、積極的にその利用を考えてきました。

 今回、MedXMLコンソーシアムの発足に伴い、SIGというMMLの各医療分野への特化に関する議論を行う場を設けていただきましたが、鍼灸分野でも今後積極的に議論を交わしていくために、「東洋医療情報研究会」という団体を立ち上げ、活動を始めています。ここでは、西洋医学とは大きく異なる概念や用語などを如何に整理して共有情報として扱うか、鍼灸情報をどのような形でMML等の交換規約にあてはめていくのかを検討し、「鍼灸における医療情報交換規約の原案作成」を行っていきます。そして鍼灸・東洋医学からの提案をMedXMLコンソーシアムへ働きかけていこうと考えています。

 

2.鍼灸情報をどのようにして記載するか?

 鍼灸治療には、主訴と現症を把握する医学的なプロセスを用いて治療にいたるものと、「証を立てる」という東洋思想に立脚した鍼灸診断方法を用いたものと、大きく2つに分けることが出来ます。ここでは前者を「西洋医学的鍼灸治療」、後者を「東洋医学的鍼灸治療」と呼ぶことにします。

2−1.西洋医学的鍼灸治療

 ここでは、西洋医学で用いられる用語や理学検査を使い、現症や理学所見の評価についても西洋医学と共有でき得るものであると考えました。そのようなデータを用いて、鍼灸治療計画を立てるという方式を取るため、特に新しいモジュール群を作成することなく、MMLVer2.21のモジュールをそのまま使用することを考えました。そのためには、MMLにおける作成権限を「その他」ではなく「鍼灸師」というカテゴリーで作っていただく必要があり、今後、MedXMLコンソーシアムに積極的に参加し、MML技術検討委員会において提案を行っていくことが重要であると考えています。また、Merit-9に関しては,研究班に参加あるいは連携しつつ、問題点や可能性を模索していこうと考えています。

2−2.東洋医学的鍼灸治療

 「証」に代表される、西洋医学で用いられるプロセスとは全く違う概念により、鍼灸診断を行います。そのため、用いられる用語や診断手法も大きく異なってきます。そのため、MMLに関しては、現行のMMLVer2.21に「東洋医学モジュール」という名称の東洋医学に対応したモジュールの追加を検討しています。このようにすることで、鍼灸情報が必要に応じて参照され、かつ情報の煩雑化を防ぐことが可能ではないかと考えます。また可能であれば、モジュールの下に「東洋医学鍼灸モジュール」「漢方モジュール」などのサブモジュールを作成し、鍼灸だけでなく、漢方薬など幅広い東洋医学に対応していきたいと期待しています。当初は、鍼灸のみの「原案」を作成し、コンソーシアムに提案しつつ、同時に漢方薬を使用する医師・薬剤師らに参加を呼びかけ、より包括的かつ汎用性の高いモジュールの作成を目指していこうと考えています。臨床研究を行う為の項目など、専門領域や目的に特化された項目をどのような形で記述するかについても、今後協議が必要であると考えています。