是安 俊之
株式会社ビー・エム・エル システム本部長
MedicalStationは2000年2月から販売を開始した診療所向けのレセコン一体型電子カルテシステムです。2001年4月末現在で約100ヶ所の稼動実績をもっています。
今年のシーガイアのテーマの一つとして「製品として市場に登場した電子カルテ」がありますが、製品として、つまりビジネスとして電子カルテを提供するのは、実験や試行などとは全く違った視点が必要となります。従来このシーガイアではプログラムやシステムの機能の紹介等を主にさせていただきましたが、今回は弊社での経験をもとに、電子カルテを製品として一般の診療所に提供する場合の要件についてプロセスに従ってご紹介させていただきたいと思います。
1. 導入準備
MedicalStationはレセコン一体型の電子カルテなので、まずレセプトのための情報収集から準備が始まります。ご承知のように、日本には俗に地方公費と呼ばれる地域ごとの医療費補助制度があるため、これらを調査し特殊な仕組みであれば、場合によってはプログラムの開発が必要になります。既開業のお客様であれば既存レセコンからのデータコンバートを行う場合もあります。患者さんの動線なども含めた全体の運用イメージを話し合い、次に施設に適合した各種マスターの設定、使用頻度の高い薬や処置等の登録、検査セットや処方セット、シェーマの登録などを行います。登録情報をお客様からいただいてこれを入力するわけですが、特に新規開業のお客様の場合、この時点ではなかなかイメージが掴めず、情報が不十分なケースが多くあります。このような場合は教育期間中や本稼動後に並行して登録作業を行うことになってしまい、お客様にも弊社スタッフにも負担が重くなるので、極力この準備段階で十分な登録情報がえられるような工夫が必要です。
2. 導入作業
マシンを現地に持ち込んでセットアップを行います。このとき、LAN工事などは現地の工事業者によって既に完了していることが前提なのですが、実際に現地に入ってみると配管だけで、線が通っていなかったりする場合もあります。また、当初打ち合わせた場所にマシンを設置してみると、お客様の想像していたイメージと異なり、全く別の配置に変更になったりする場合もあります。全てが予定通りにいくことは稀で、現地に入ったスタッフには臨機応変に対応できる技術と体力が必要です。
3. 教育
教育担当の専門スタッフが現地に貼り付いて指導します。ただ、新規開業のお客様の場合は開業準備で何かと忙しく、既開業のお客様の場合はもちろん診療時間には教育できないので、いずれの場合もなかなかまとまった教育時間がとれないのが現実です。
教育はドクター、ナース、コメディカルスタッフ、クラークの全てに対して必要で、個別教育の後に総合シュミレーションを何度か行うのが一般的です。この教育の過程で、事前に想定していた運用方法に問題があることが判明し、急遽変更になる場合もあります。
4. 稼動立会い
本番開始後の数日間は、操作も不慣れで追加教育が必要な場合が多いのと、本番を開始して初めて運用上の問題が表面化することもあり、他施設での経験などを基にお客様と協議し、すばやく適切な対応をとらねばならないこともあります。一般に、導入準備段階で十分な打ち合わせと事前登録がなされていると本稼動もスムースに開始できます。
5. 1ヶ月後確認
稼動後1ヶ月めに運用状況の確認と、初めてのレセプト出力および関連作業の支援を行います。このころはお客様も操作に慣れ、一般的にはスタート当初より運用なども改善されているのですが、場合によっては改善のつもりが改悪になっていたり、他施設で解決ずみの問題で悩んでいたりというケースもあり、客観的なアドバイスが有効です。
6. 電話サポート、リモートメンテナンス
教育期間終了後は電話でのサポートが主になります。もちろんリモート保守機能が備わっているので、お客様と同じ画面を見ながら操作指導をしたり、不具合点の確認をしたりすることができます。このような電話&リモートサポートのためにサポートセンターを設置していますが、この部門のスタッフはシステムに関する知識はもちろん、医療や医事会計の知識も必要で人材の育成には時間がかかります。しかしながら電子カルテのようなミッションクリティカルなシステムではサポートが極めて重要であり、この部門にどれだけ優秀な人材を置くことが出来るかが「製品」の重要な評価基準になると思われます。
7. 開発・テスト
営業や現地教育スタッフ、サポートセンターなどからの情報をもとにバグ修正、機能改善、機能追加などを行います。これらはリビジョンアップやバージョンアップという形でお客様システムに配布されるわけですが、多くのサイトのシステムを同時に更新するため、万一潜在バグなどがあると、多大な被害が発生してしまいます。このため、プログラムのテストには十分な人員と時間が必要です。システムには完成ということがなく、常にユーザーニーズをフィードバックしていく仕組みとこれを維持する体制が必要です。
コンピュータのヘビーユーザーでない一般的なドクターが電子カルテを診療のツールとして使おうとした場合、プログラムの良否も大切ですが、上記1〜7にあるような総合的な体制がより重要になってきています。導入件数が急激に増加しており、弊社の体制もまだまだ十分とは言えませんが、MedicalStationを単なるコンピュータシステムとしてではなく、電子カルテを安心して円滑に運用していただける環境全体であると位置付け、体制の強化に努めていきたいと考えています。